Adminではないけれど [隠居生活編]

主に無職の身辺雑記、たまに若い頃の自慢話。

「基礎英語」のころ

中学生になる時、小学校とは違って勉強が大変になるとあちこちで脅かされた.いわく、「算数」は「数学」に変わって格段に難しくなる.国語に古文が含まれるようになる.社会は地理・歴史・公民に分れる、など.中でも一番大きいのは「英語」という新しい科目が加わること.そしてその英語が最も重要視されること.

NHKラジオに「基礎英語」という番組があり、それを聞くといい、という噂を耳にした.この話にピンとくるものがあり、聞いてみようと思った.今から振り返っても、これはいい判断だった.記憶にはないが、カレンダーを見ると、この年は3月31日が月曜日だったから、恐らく当該年度の番組はこの日から始まったはず.早めに決断したため、Lesson 1から聞くことができた.

これが語学番組の初体験.1975年のできごと.

現在の語学番組はおおむね一講座15分だが、当時の「基礎英語」は20分.放送は一日三回.早起きは無理だから、三回目、18時20分からの放送を聞くことにした.部活動は運動部に入ったが、弱小部で、練習は3時間程度.だいたい18時には帰宅できたから、聴取に問題はなかった.これが月曜から土曜まで6日間.これを一年間、一日も休まずに聞いたのは小さな自慢だ.夏に家族で旅行した時も、ラジオとテキストを持参し、旅館で聞いた.

初めて英語を学ぶ時に、ネイティブの人の発音を聞けたのは幸運だった.最初にカタカナ英語を覚えてしまうと、あとで修正するのは大変だ.はじめの一ヵ月は、Hello.ではなく、This is a pen.でもなく、毎日数個の英単語とともに、英語のすべての母音と子音についての説明だった.cap、cop、cupの違い、shipとsheepの違い.この期間に発音記号を覚えたのは一生の財産だ.英語はスペリングと発音が一致するとは限らない.辞書を引けば必ず発音記号が載っているが、読めなければ正しい発音はわからない.

習い始めの頃は驚くことが多かったが、今でも覚えているのは、[s]の音の説明だ.「ありがとうございます」の「す」の音です、と言うのだ。日本語の「す」は「su」だろう、と思ったが、自分で発音してみると、「ありがとうございます」の最後の音は、確かに母音がない.それに気づいた時の驚きといったら!

講師は大野一男先生.番組の中で、年齢を尋ねる表現を習った時に、パートナーの人にHow old are you? と訊かれた大野先生が I'm fifty years old. と答え、「うっかり答えて、私の年齢がバレてしまいました」とテヘペロしたことが記憶に残っている.今ネットで調べてみると、1926年(大正15年)生まれらしい.当時は、ずいぶんとおじいさん先生なんだな、と思ったのだが、現在の「ラジオ英会話」の大西先生の11歳下.ずいぶんとお若い.2004年1月12日、78歳で亡くなられたようだ.

パートナーの方のお名前は全く記憶にないが、いろいろ調べてみると、スザンヌ・カネミツさんとレジナルド・スミスさんだったと思われる.

翌1976年、「基礎英語」は前年度と同じ内容が再度放送されることになった.それならテキストをそのまま使える.今年も受講しよう.それで18時20分から40分、「基礎英語」と「続・基礎英語」を続けて聞くことにした.驚いたことに、一年前に、何度聞いても聞き取れない、発音の難しい単語がいくつかあったのだが、それがどれもクリアに聞き取れる.一年間の受講は無駄ではなかった.進歩したのだ.どんなことであれ、自分の「進歩」を実感したのは、この時が初めてだった.


Erika VargaによるPixabayからの画像