Adminではないけれど [隠居生活編]

主に無職の身辺雑記、たまに若い頃の自慢話。

「ラジオで! カムカムエヴリバディ」

昨年の朝ドラ「カムカムエヴリバディ」はとても面白かった.このドラマは、ラジオ放送が始まった1925年3月22日に生を受けた安子と、彼女の子るい、孫のひなた、この三代の女性100年を描く物語だ.三人の女性に共通するのは、ラジオの英語講座で英語を学習し、堪能になったこと.彼女たちの姿勢を見て、ラジオ講座で英語を学ぼうと思った人はかなりの数にのぼると思われる.SNSで「カムカムを見てラジオ英会話を聞き始めました」とつぶやいている人を何人も見た.

彼女たちの周囲に外国人が現われ、英語で会話するシーンがたびたび訪れる.また、ナレーションがなぜか英語である(理由は最終回に判明する).一部を除いてそれほど難しい英語は使われていないから、このくらいなら聞き取れると思ったが、そう簡単にはいかなかった.字幕が出るから意味はわかるが、英語で何と言っているのかがわからない.

ドラマに歩調を合わせ、「ラジオで! カムカムエヴリバディ」という語学番組が開講されていた.ドラマの中で使われた英語がテキストになっていることを知り、途中から聞き始めた.聞いてみると、なかなか驚くべき番組だ.よくNHKがこんな番組を作ったもの.

中身はかなり初歩的な内容から割と高度なことまで.朝ドラに興味のある人なら、初心者でもついていけるし、上級者でも飽きずに聞けるという狙いか.朝ドラ連動企画だからこそ.

一回の放送は15分.うち5分くらい「朝ドラ受け」をやっている.語学番組としては完全に無駄な時間.これまた連動企画の副産物か.「あさイチ」の鈴木アナや華丸大吉とは違った受け方をするので、これはこれで楽しんで聞いていた.

講師は大杉正明先生.かつて「ラジオ英会話」の講師を10年担当された方だ.ネイティブのパートナーはいない.語学番組としてはあり得ないとは言わないが珍しい.

生徒役として天野ひろゆきとAIが出演.生徒役自体は珍しくない.私が今聞いている「中高生の基礎英語 in English」では、昨年は鈴木福、今年は仲吉玲亜が生徒役で出演している.だが、天野とAIは生徒と言いながら英語は相当できる.AIはネイティブみたいなものだろうし、天野も、大杉先生から決められたスキットを音読するように言われてもアドリブでセリフを変えたりしてしまう.英語のセリフをアドリブできるのは相当に力がなければ難しい.

この二人が(主に天野が)大杉先生に突っ込みまくる.どこの語学番組で教師に突っ込む生徒があろうか.話題は逸れるし進行は遅れる.しかしさすがは百戦錬磨の大杉先生.知らん顔して話を戻してしまう.その大杉先生も、「昔ナントカという英語の歌があって……」などの説明に「どんな歌ですか?」と訊かれると、そのまま歌い出したり、かなり翔んでいる人だった.

爆笑の連続だった.聞いているうちに、新しい言葉を覚えた、役に立つ表現を知った、というのも大事だが、番組を聞いているのが楽しい、と思えることが何より大事ではないかと思えてきた.楽しければ、続けることがつらくない.また聞こうと思う.英語の修得には長い時間がかかる.楽しめなければ続かない.

教材に使われる英文は毎回二つある.二つ目の題材として、これまでの語学番組を振り返るべく、平川唯一先生の「英語会話」(カムカム英語)、松本亨先生の「英語会話」、東後勝明先生の「英語会話」……が取り上げられた.当時の番組の中から1シーンを取りあげ、当時の音声で聞く、というもの.そして最終月には大杉正明先生の「英会話」が取り上げられた.

大杉先生は1997年までラジオ「英会話」の講師を担当された.最後の年である1997年度のドラマには、夫がいるのに若い男性からの愛の告白に揺れる女性が登場する.その女性が、若い男性とやりとりをしているシーンを三日にわたって「学習」した.

大杉先生によれば、当時、NHKが不倫女性を描くなどけしからんと、想像以上の騒ぎになったらしい.大杉先生はその話題に触れ、「あの時は参ったよ、別に不倫を描きたかったわけじゃないんだけれども」と言って、こんな話をされた.半年以上も前なのでうろ覚えだが、大意は間違っていないはず.

「英語を勉強するということは、言葉や文法を覚えてハイ終わり、ではない.言葉の向こうには生きている人間がいる.生きているということは、人を好きになる、夫婦喧嘩をする、親子の対立もある.一人一人が、さまざまの悩みを抱えながらも生きている、そういう『人間』が使う言葉なんだということを、受講生の人には是非考えてもらいたかったんだ」

この言葉には胸を打たれた.

中学三年生の時に聞いた「英語会話」(東後勝明先生、松坂ヒロシ先生)を最後にラジオ講座から離れた.それから10年、20年.自分の英語力のなさをたびたび痛感したが、別に英語ができなくたって死にはしない、と開き直っていた.

これ以上英語ができないままだとさすがにマズイと痛感し、「入門ビシネス英語」を聞くことにしたのが2009年.以来2021年まで13年にわたり「入門ビジネス英語」を聞き続けて来た.が、いっこうに上達する気配はない.勉強が楽しくないから上達しないのか、上達している手応えがないから楽しくないのかわからないが、英語の勉強が苦痛で仕方がなかった.

2021年末で仕事を辞める.となれば英語は必要なくなる.2022年3月を以て英語の勉強は終わりにしようと決めていた.

そんな矢先に「ラジオで! カムカムエヴリバディ」(2021年11月~2022年3月)を聴講し、大杉先生の話を聞いて、英語って面白いな、と思った.面白いと思えるなら、もう少し続けようかな、と思った.仕事で使わないならビジネス英語である必要はない.それなら大杉先生がかつて担当しておられた「英会話」がいいかな.

かくして、2022年4月から「英会話」の受講が始まった.