Adminではないけれど [隠居生活編]

主に無職の身辺雑記、たまに若い頃の自慢話。

「現代英文法講義」を少しだけ押す

まともな文法書が一冊あれば、たいていの疑問は解決するだろうが、学習が進むと、その本には触れられていない、あるいは簡単にしか書いていないことに疑問を持つことがある.その本の説明に不満を感じることがある.要は物足りなくなるのだ.

本に載っていないのだから、気にしても仕方がないと諦めるのもひとつの方法.諦めずに追求するなら、別の本を当たるしかない.そうした時に「現代英文法講義」(安藤貞雄著、開拓社)は有力候補のひとつだ.

私は永年、修飾語句(Modifire: M)の扱いが理解できずにいた.文を構成する主要素は主語、動詞、目的語、補語の四つ.これらはどれが欠けても文が成立しない.修飾語句は修飾のためのもので、なくても文は成立する.そのように習った.

  • ①Birds sing merrily.
  • ②He lives in New York.

どちらも第一文型.merrilyとin New Yorkは修飾語句だ.①はわかる.Birds sing.でも文は成り立つ.しかし②はどうか、in New Yorkがなかったら意味が通じないではないか.「具体的にどこに住んでいるかはともかく、とにかくどこかには住んでいる、生活しているという意味で、文としては成り立つ」という説明を聞いた覚えがあるが、この理屈が通るなら、She loves you.のyouがなくても、「彼女は、相手が具体的に誰かは別にして、人を愛することのできる女性である、という意味だ」となりShe loves.も文だということになってしまう.

本書を紐解くと、修飾語句には、省略可能なものとそうでないものがあり、省略できないものを義務的副詞語句(obligatory adverbial: A)と呼ぶ、②のin New Yorkは義務的副詞語句だと明記されている.そうか、やはり修飾語句だからといってすべて省略可能ではないのだ.

また、補語についても気になることがあった。だいたい補語はわからないことだらけなのだが、そのうちのひとつ.

  • ③They are students.
  • ④He came running.

③のstudentsも④のrunningも補語であると習う.③のstudentsはわかる.④のrunningも補語だといわれれば、そうなのですかと答えるしかないが、③と一緒くたにすることに気持ち悪さを感じていた.そもそも補語はなんなのかといっても「英文法解説」には補語の説明がない.

これも「現代英文法講義」を読むと、③は補語だが、④は準補語として、別枠扱いにしている.とても納得のいく説明である.

本書を入手した初日にこのふたつが確認できて、胸のつかえが取れた.高かったけれど、これだけで元が取れたと感じた.

その後も、他で解決しなかった疑問がいくつも解決している.今の自分にとっては、なくてはならない有用な書である.

ただ、誰かれ構わず薦める気にはなれない.本書は人を選ぶ.

一番大きな理由は、学校で習う文法とかけ離れている部分があること.学校では五文型で教えるが、安藤先生は義務的副詞語句(A)も文の主要素として扱い、SVA、SVOA、SVCAを加えた八文型を提唱している.品詞は一応八品詞としているが「冠詞は形容詞の仲間ではない」などとうっかり書いていて、どうやら限定詞を九番目の品詞として扱いたい様子が窺える.

文法用語についても、subjunctive moodは「仮定法」として知られるが、本書では「叙想法」としている.*1また、主格補語や目的格補語も、本書では主語補語、目的語補語という言葉になっている.今のところ気づいたのはこの二点だが、恐らくほかにもある.

記述が難しい.難しいというより細かい.ついていくのが大変だ.

索引は充実しているが、見出しはすべて英語.たとえば副詞について調べたければadverbで引かなければいけない.選択疑問文ならalternative question、配分複数ならdistributive pluralである.こんな言葉は知らない.本書を活用するためには、文法用語は英語でも覚える必要がある.

こうした理由で、高校生以下は本書に手を出すべきではないと私は考える.ただし、現在の手持ちの文法書や参考書に飽きたらないと感じている人は、セカンドオピニオンとして本書を利用すれば、得るものはあるのではないか.

2005年発行.安藤先生は78歳.その年齢でこれだけ大部の本を書く意欲と体力には頭が下がる.恐らく、これまでの研究の成果をすべてつぎ込むつもりで執筆されたのではないか.2017年に亡くなられたため、改訂版が出ることはない.

全945ページ.かなり厚く、重い.普通の書店には置いていない.だから手に取って内容を確認することができない.内容を考えれば高価とはいえないが、エイヤで買うには勇気が必要な価格だ.多少なりとも参考になればと、自分の感想を述べてみた.

本書を開くのは、月に数度.購入して半年経つが、全体の一割も目を通せていまい.感想の信頼度はその程度.将来、目を通した部分がもっと増えた時に、感じ方が変わるようであれば、また書いてみたい.


*1:実は私もこれには同意見.仮定していない場合もあるのに仮定法というから混乱が生じるのであって、「現実に起きていないことを想起して叙述する」のが「叙想法」だといえば、すっきりするのにと思っている.目次を見てこの言葉を使っているのを知り、購入の決断をした経緯がある.