Adminではないけれど [隠居生活編]

主に無職の身辺雑記、たまに若い頃の自慢話。

仮面ライダーは実在した

小学生の時、小学館の学習雑誌(「小学×年生」)の付録に「ウルトラブレスレット」がついたことがあった.我が家では一時期この雑誌を購入してもらっていたが、「学習雑誌」とは名ばかりで、実態は漫画誌であることを親に見抜かれてからは購入してもらえなくなった.が、「次号にはこの付録がつく」という広告は、購読していない小学生の目にもちゃんと触れるようになっており、毎月の付録は把握していた.

この「ウルトラブレスレット」がほしかった.親に頼み込んでなんとかこの号を買ってもらうことに成功.発行を楽しみに――本当に楽しみにしていた.いざ発行され、買ってきて、うきうきして付録を紐解いたのだ.期待が強かったからこそ、中を見た時のガッカリ感は今でも思い出せるほど.それは「ウルトラブレスレット」とは似ても似つかぬまがいもの.画用紙で作られた単なるリストバンドに過ぎなかった.

冷静に考えれば、紙製のまがいもの以外に何を付録につけられるだろう.あれにガッカリしたということは、当時の自分はウルトラブレスレットが実在すると信じていたのだろうか? ということは、ウルトラマンウルトラセブンも実在すると? そういえば、ミラーマンは実在すると思っていて、それどころか、変身のポーズを完璧にコピーできれば自分も鏡の世界に入り込めると思い込み、必死で真似をした時期もあった.

もちろんウルトラマンミラーマンも、仮面ライダーもゴレンジャーも、空想上のものであって、テレビに映るのは着ぐるみであり、中には人間の役者が入って演技しているだけだ、と大人はわかっている.本当にそうだろうか.昔、新聞社に「サンタクロースはいるのでしょうか?」と質問をした女の子がいた.新聞社の回答は「いる」だった.この世に愛や、ロマンスが実在するのと同じように、サンタクロースは実在するのですよ.

幼い男の子が骨髄性白血病という重病と闘っていたが、一ヵ月の余命宣告を受けてしまった.男の子は仮面ライダーが大好きだ.何かしてあげられないだろうか、と考えた母親が、先月末、twitterで助けを求める投稿をした.テレビ局かプロダクションに相談すべきかも知れないが、連絡方法がわからないと.そうしたらわずかな間に、要潤が、瀬戸康史が、歴代のライダーを演じた役者が続々とコメントを寄せた.ぜひ協力させてください、いつでも連絡してくださいと.

それを見た時、仮面ライダーは実在したのだと胸がいっぱいになった.子どもの味方、正義のヒーロー仮面ライダーは、本当にいたんだと.

ところがその後、話はおかしな方向に進んでしまった.当該のtweetを追いかけておらず、直接見たわけではないのだが、その母親を非難する声が相次いだようなのだ.いわく、子どもが病気だからといってそんな我儘が通用すると思っているのか、とか、これで役者が見舞いに行くなどの前例ができたら、うちの子は病気です、という声があがるたびに行かなければいけなくなる、とか.

ライダー関係者の中には、この母親の声に気づいても、自分は関わりたくないと思った人もいるだろう.何かしてやりたくても、忙しくて時間が取れないという人もいるだろう.それはそれで全く構わないことだ.義務ではない.強制されることではない.ただ、何かしてやりたいと思った人もいた.そういう人が声を上げた.ここから先は、当人同士の問題.第三者がとやかく言う必要はない.

これを真似して、うちの子も、という声が挙がるかも知れない.それでもいいじゃないか.それに対して、何かしてやりたいと思った人が連絡を取ればいいし、もううんざりだと思ったらスルーすればいい.それだけのこと.

その母親は、あまりの騒ぎに驚き、あちこちに言い訳したり謝罪をして回ったり、大変な状況に陥ったらしい.一分一秒が大切で、少しでも子どもの側にいなければならない人に、何ということをさせるのだ.仮面ライダーは実在したが、ショッカーもまた実在したのか.

そんな中、徳山秀典、井上正大、犬飼貴丈などがその子に会いに行ったそうだ.犬飼の事務所は、取材を受けて「事務所としては報告を受けておりません。そんなお話があったのなら、犬飼ではなく、“桐生戦兎”がお見舞いに伺ったのではないでしょうか」と回答したという.