Adminではないけれど [隠居生活編]

主に無職の身辺雑記、たまに若い頃の自慢話。

交渉人はツライよ

大河ドラマ「どうする家康」33回「裏切り者」(8月27日放送)は石川数正にとっては辛い回となった.

徳川軍は小牧・長久手の戦で秀吉軍に勝ったものの、総大将の織田信雄が和睦に応じてしまったため、やむなく停戦.和睦交渉のため、石川数正羽柴秀吉のもとへ向かう.徳川方は和睦は飲んでも臣従するつもりはない.秀吉は臣従を求め、従わなければ三河を焼け野原にすると迫る.数正は、北條家と手を組んだ徳川の力は強大で、秀吉といえども及ぶものではないと強弁するが、家康が北条に差し出す約束をした沼田は真田が立ち退かず、北條との関係も盤石ではないのでは……と真田の後押しをしていることをほのめかす.

直接秀吉と会って、秀吉や秀長の人柄に触れ、豊臣家の力を見た数正は、今の秀吉と戦って勝てる道理はなく、我らに残された道は臣従のみと家康に報告するが、榊原康政は「調略されたとの噂は本当であったか」と呟き、本田忠勝は「石川殿は誰の家臣か」と叫び、井伊直政は「裏切り者」と刀を手にし迫って来る始末.

交渉人の辛いところだ.停戦後、秀吉は朝廷への調略も推し進め、関白を賜るに至る.もはや力の差は明白と数正は考えるが、それが見えない他の者には数正が裏切ったとしか考えられないのだ.

こうしたことは現在でも非常によく見られるのではないか.取引先と契約締結に当たってどういう条件がいいか、双方の事情を勘案し、落としどころはここしかないと仮決めして社に持って返ると、「なんでうちがそこまで譲歩しないといけないんだ.お前はいったいどっちの会社の社員なんだ.アホたわけ」と言われたりするのだ.相手からこちらがどう見られているかが見えている者と、自分たちのことしか見えていない者の意識の差だが、裏切り者のように見做されてしまうのは交渉人の宿命.自分にも経験のあるところだ.

これを避けるための鉄則は、難しい交渉ほど一人ではしないこと.相手の事情や交渉の場の雰囲気を知る者が二人、三人といれば、言うことにも説得力が増す.他の者の見る目も変わるだろう.ドラマに即して言えば、数正は大坂へは何度も足を運んだのだから、そのたびに他の家臣も連れて行くべきだった.榊原康政あたりなら、大阪城を見ただけで理解したのではないか.