大学入学と同時に一人暮らしの自炊生活が始まった.これまでは、食事というのは家で摂るものであって、外食の機会は滅多になく、特別感が強かった.これからは好きな時に外食ができる.なんだか生まれて初めて「自由」を手にした気がした.
学食が昼だけでなく夜もやっていたのはありがたかった.種類が豊富な上に安い.随分とお世話になった.大学の周辺には学生向けの安くてボリュームのある定食屋が何軒もあった.こうした店もよく利用した.そして大学生になると「飲み会」というものがある.高校時代まではなかったもので、食生活はずいぶんと彩り豊かになった.
こうした生活を送って実感したのは、健康な時は何でも食べられても、体調を崩すと、外食はもちろん、弁当や総菜なども受け入れられなくなるということだ.味が濃すぎる.硬すぎる.あるいは安物の油で吐き気がする.今ならスポーツドリンクを常備する手があるが、当時は、スポーツドリンクはスポーツをして汗をかいた時に飲むもので、体調の悪い人が栄養補給のために飲むという発想はなかった.
体調が悪くなる時は、たいてい前兆がある.くしゃみが出るとか、背中がゾクゾクするとか.あ、明日は風邪を引きそうだ.そう感じたら、体力があるうちに野菜スープを作った.家に食材があれば、体調が悪くなってからでもできなくはないが、買い物に行くとなると体力があるうちでなければできない.必要な肉や野菜を買ってきて、鍋に入れて柔らかく煮込む.鍋一杯に作ると二、三日は保つ.これができたらバタンキュー.あとは、お腹が空くたびにこれを食べる.食べきる頃には元気になっている.
こういう料理が自分でできるのはありがたかった.この能力があるかどうかで、大げさではなく、生死を分けると思った.