5月1日、石川佳純が引退を表明した.ついに来るべきものが来た.
女子卓球界はこれまでのところ、非常にうまく人材が育ってきた.平野早矢香(1985年生まれ)、福原愛(1988年生まれ)、そして石川佳純(1993年生まれ)と、数年おきに強い選手が育ち、しかもそのレベルが少しずつ上がってきた.この三人は性格は違うが、優れたキャプテンシーの持ち主でもあった.
2016年のリオデジャネイロ五輪の前に、初出場の伊藤美誠が、インタビューで「先輩を手ぶらで帰すわけにはいかない」と答える一幕があった*1.驚いた.生意気というだけでなく、先輩に対して失礼でもある.怒っていいところだと思うが、隣で聞いていた石川は、笑いながら「頼もしいわぁ」と口にしていた.なんと度量のある先輩かと思った.
女子卓球界は、体育会にありがちな、上意下達の体質ではなく、後輩ののびのびとした言動を許容する雰囲気があると感じる.この雰囲気が成績向上に一役買っているとは言えるかもしれない.上の人の顔色を窺っている間は、実力を十分に発揮するのは難しいだろうからだ.
卓球の力は、練習を重ねればある程度は上がっていくだろう.周囲もそのために必死でバックアップをする.しかし、キャプテンシーを身につける練習、というものがあるとも思えない.だからといって勝手に身につくものではないから、何らかの形で本人が努力した結果なのだろう.それを感じるのは、石川の下の世代でこれの持ち主が見当たらないからだ.
もちろん、選手と話をしたこともない、練習風景を見たこともない自分が判断できるわけもない.ただ、インタビューなどを見る限りでは、どの選手も自分のことで手一杯で、周りに目配りをしている人は少ないように感じられる.今はかつてない激戦区で、人のことを構っている余裕がない証左かも知れない.
石川佳純選手の全盛期は、全日本を三連覇した2014~2016年頃か.あるいは、世界ランキングで3~4位をキープしていた2018年頃か.その後は若手の台頭を許し、早田ひな、伊藤美誠、平野美宇の後塵を拝することが多くなった.そんな中、2021年の全日本で5度目の優勝を飾った時は驚いた.プロ野球選手が40歳でホームランを打つのもすごいが、女子卓球選手が28歳で優勝するのもかなりすごいことだと思う.
4月のWTTチャンピオンズ・マカオでは、一回戦でドイツのニーナ・ミッテルハムに3-2で辛勝したが、2回戦で陳夢に1-3で敗戦.これが最後の試合となった.
「長い間お疲れさまでした、そしてありがとうございました」と伝えたい.