Adminではないけれど [隠居生活編]

主に無職の身辺雑記、たまに若い頃の自慢話。

「最もゆっくり歩く者が最も遠くまで行く」

「最もゆっくり歩く者が最も遠くまで行く」という諺が好きである.諺というか、諺風の造語.自分で作った.「最もゆっくり」というのは間違いであろうが、標語としては極端な方がよく、励ますという点では反語的な方がよい.我ながら気に入っていてよく使う.

阿刀田高の初期の小咄にこういうものがある.ある教会で神父が信者の前で自動車のスピード違反を戒めていた.速く走っても早く着くわけではありません、むしろゆっくり走った方が遠くまで行かれるのですよ.そうしたら一人の信者が異議を唱えた.うちの子は制限速度を守ってゆっくり走っていましたが、暴走車に追突されて死んでしまいました、と.神父は慌てず、お子さまは最も遠くまで行かれたのです.これを読んだ時に思いついた.

この小咄を元にしたとなると不謹慎だが、もちろん意味するところは、「ほんの少しでいい、とにかく続けよう、続けていれば、いつか遠くまで行かれる」ということ.これは恐らく、たいていの場合において真理だ.だからそれを意味する言葉は洋の東西を問わずたくさんある.

英語には、"Little by little one goes far." という諺がある.中学生の時に使っていた英語の辞書の巻末に載っていて覚えた.直訳すれば「少しずつ歩いて、人は遠くまで行く」であろうか."Step by step one goes far." ともいう.意味は同じだろうが、stepの場合は一歩ずつ踏みしめている感があり、前向きな印象もある.littleの方は、ほんの少しだけど、という後ろ向きのイメージ.こちらの方がいい.

"Slow and steady wins the game." という諺もある.gameはものの喩えだが、自分にはピンと来ない.勝つか負けるかはどうでもいい.その意味では「最もゆっくり歩く者が最も遠くまで行く」の「最も」も、比較が前提だから適切ではないのかも知れない.「ゆっくり歩いて遠くまで行く」の方がいいか.でもこれだと当たり前すぎて言葉としては面白くない.