野球の公式戦で選手は本当に真剣勝負をしているのだろうか、という疑問を最初に感じたのは、1984年9月1日ではなかったか.
この日、近鉄バファローズの鈴木啓示が南海ホークスの門田博光から三振を奪い、通算3000奪三振を達成した.試合後、鈴木が門田に対して感謝の言葉を口にするのが気になった.「あいつは義理人情のわかる男や」と.
いま鈴木啓示、門田博光といって「ああ、あの」とピンとくる人がどのくらいいるかわからないが、鈴木は通算317勝、3061奪三振などの記録を持つ大投手.門田は前年に本塁打王を獲得するなど、当時のリーグを代表する強打者だった(通算2566安打、567本塁打).20代の時にはお二人を生で見ている.
三振記録を阻止することだけを考えれば、打者はバットを短く持って当てに行けばいい.三振することはないが、むろん、長打は望めず、打率も上がらない.門田はそうではなく、本塁打を狙って、思い切り振ってきた.だから三振に仕留めることができた.向かってきてくれたことに対して鈴木は感謝しているのだと、最初はそう受け取った.
3000奪三振はしばらく騒がれ、スポーツニュースやバラエティに鈴木が出演しているのを何度も見た.そして同じことを訊かれ、同じことを答える.門田には感謝していると.あいつは俺の気持ちをわかってくれたんだと.
もしかして、門田はわざと三振したのだろうか.そして鈴木は、門田が華を持たせてくれたことを察して、感謝の言葉を口にしているのか.
真相はわからない.不正はなかったと信じたいが、それならばなぜ、鈴木はあそこまで門田に感謝していたのか.