Adminではないけれど [隠居生活編]

主に無職の身辺雑記、たまに若い頃の自慢話。

ゼレンスキー大統領の演説

2022年3月23日18時、ウクライナのゼレンスキー大統領が衆議院議員会館の国際会議室でオンラインにて約12分の演説を行なった.

2月24日のロシアのウクライナ侵攻以降、ゼレンスキーは欧州議会および主要ヨーロッパ国、カナダ、アメリカ、さらにイスラエルなどで演説を行なっている.反ロシアの輪を広げるためだ.

翌日の新聞で演説の内容を読んで、これは歴史的な演説だ、話を直接聞くべきだと考え直し、前日19時からのNHKニュースを録画で見た.ここでの演説はダイジェストで、かつ、字幕だった.その直前に演説が終わったばかりなのにもう字幕が用意できたのかと驚いたが、同時通訳より字幕の方が頭に入る.ただノーカットではなかったため、ネットには動画が転がっているだろうと探してみたら、衆議院のサイトにちゃんと掲載されていた.この動画は少々見にくいが、細田衆議院議長の前口上および山東参議院議長の締めの挨拶も聞くことができた.

同時通訳はさぞ大変だっただろう.が、聞く立場として正直に言わせてもらえば、ちゃんとした日本文になっていないので、聞き取るのには努力が必要.そこに神経を集中していると、発表している人の表情や発声、イントネーションなどがわからなくなる.今では日本語の全文訳があちこちで読めるから、それを読みあさって内容理解に努めた.

アメリカでの演説では、真珠湾攻撃を例に出し、軍事支援を呼びかけたと聞いた.ドイツでは、ドイツの対露外交を強く批判したそうだ.どの国でも、具体的な要求があったという.茶飲み話をしているのではなく、トップ外交を行なっているのだから当然ではあるが、日本は何を言われるのか不安に思った人もいるはず.

実際には、日本がいち早く対露支援をしたことへ謝意を述べ、日本はアジアのリーダーだと持ち上げ、今後とも経済制裁を続けてほしいと述べたにとどまった.さらに、妻のオレナがウクライナ語のオーディオブックの作成に関わっており、日本のお伽噺を録音したことがあると述べ、親日ぶりをアピールした.そして「アリガトウ」と日本語で締めた.日本人の特質をよくふまえた内容で、凄腕のスピーチライターがいると話題になっているが、原稿を誰が書いたとしても、読み上げた大統領の手柄だろう.

「ロシアは世界最大の国だが、軍事力はさほどではなく、道徳の面では最小だ」というのは狙ったジョークだろうが、翻訳ではわかりにくい.

日本語訳はいろいろ出ているが、どれも微妙に内容が異なる.気になるのは、避難民がどのくらいいるのかだ.同時通訳では9,000人と言っていたようだが、NHKの翻訳では900万人になっている.アエラでは「多くのウクライナ人が」でごまかしている.既に死者が数千人に達しているのだから、避難民が9,000人は少ないと思うが、900万人だとしたら驚異である.ここは大事なところで正確な数字が知りたい.「多くの」でごまかしてよいところではない.

具体的ではないが、国連の安全保障理事会はロシアの侵攻を止めるのに役に立たなかったと嘆き、それに代わる新たな世界平和のためのシステム作りが必要だと繰り返し述べ、日本がリーダーシップを取ってほしいとは言っていた.これも翻訳によってトーンがかなり違い、正確なニュアンスがわからないが、日本の政治家はこれをどのような意味に受け取ったか.

私は、恥ずかしながら、この演説を聞くまで、チェルノブイリウクライナにあることを知らなかった.また、ゼレンスキーが元々は人気コメディアンであったことも、大統領就任後は政策がうまくいかず、支持率がガタ落ちであったことも、先ほどまで知らなかった(この稿を書くために調べた).この一ヵ月の行動ぶりで支持率が急上昇していることも.

山東昭子がゼレンスキーに続く挨拶で「貴国の人々が命をも顧みず祖国のために戦っている姿を見て、その勇気に感動しております」と述べたことに対し、国粋主義的な思想に傾いていると批判の声があがっていた.実際に約4分の山東の話を通して聞いてみると、全体としては穏当な内容だったように思う.確かにこの部分は表現を改めた方が良かっただろうが、気になるのはここだけ.ただ、自分が話すことで頭がいっぱいで、ゼレンスキーの話は全然聞いていなかったんだろうな、とは思った.