Adminではないけれど [隠居生活編]

主に無職の身辺雑記、たまに若い頃の自慢話。

単数のthey

中学項に入学して数ヵ月、人称代名詞というものを習い、人称と数によって変化することを学んだ.この時に覚えたことは忘れようがない.

人称単数複数
一人称Iwe
二人称youyou
三人称hethey
she
it

しかし、これは古い知識になってきている.

最近、といってももう何年も前だが、単数でも男性か女性かわからない場合にtheyを使う用法がある、という記事を読んだ.「単数でも男性か女性かわからない場合」ことはしばしばある.こうした場合、従来の枠組みの中で取り得る方法は三つ.

  1. he で済ませる
  2. he or she とする
  3. s/he とする

伝統的には1が多いと思うが、これは女性に対する差別的・侮蔑的表現.2はフェアだが、何度も出てくるとかなり面倒.3は書き言葉かつ主格限定.そこでtheyを使えばいいというわけだ.

こうしたtheyの使い方は、以前からあったらしいが、文法的には間違いだとされてきた.それが、Oxford English Dictionaryに単数の意味が明記されたことで、間違いではなくなった、それがニュースだ――というのがその記事の主旨であったと記憶している.

この記事は、読んだ直後はさほど気に留めなかったものの、あとになってたいへん興味がわき、再読したいのだが、読めずにいる.記憶に間違いがなければ、これはNHKの「高校生からはじめる現代英語」のテキスト、2017~2018年度のどこかに掲載されたコラムのはず.私は、この講座が開設された2017年から二年間、聴講した.テキストも買い、テキストに載っている記事には目を通した.しかし、NHKの語学講座のテキストというのは、あっという間に膨大な量が溜まってしまう.次々に処分しないと置き場所がなくなる.これでは、記事自体を再読することは難しい.

Singular they についてはネット上でもいろいろ記事があるが、世界で最も権威があるといわれる英語辞典のOED(Oxford English Dictionay)が単数の意味を認めたことにより、文法的に正しいことになり、堂々と使われるようになった……といった内容の記述を見たことがない.それがいつなのかを知りたいのだが.

Oxfordのブログ、「A brief history of singular ‘they’」(2018-09-04)には、興味深いことが書かれている.単数のtheyの使用例は1375年に既に見られる、一時期は広く使われてきた、18世紀になって文法的に誤りだと言い出す人が出てきたが、間違いだと言う方が間違っているのだ、とある.また、現在では二人称の単複で使われるyouも、youは複数であって、単数の意味で使うのは誤りだとする人がいたそうだ.

この記事によれば、1998年よりずっと以前からOEDは単数のtheyを認めていたと思われる.

要は、文法的に正しいとはされなかった時代もあったけれど、実際には古くから使われている用法だということ.ただし、現代ではこれまでと異なることがある.以前は「男性か女性かわからない場合」であったろうが、現代は、これに加えて、「男性でも女性でもない場合」「男性か女性かと言いたくない場合」があるのである.

ADS(American Dialect Society)は、2015年のワード・オブ・ザ・イヤーに「性別にとらわれない単数の代名詞they」を選出した.「2015 Word of the Year is singular “they”」(2016-01-08)によれば、ノン・バイナリの人を受ける使用法が「新しい使い方」(newer usage)として注目されたとある.また、2015年にはワシントン・ポストのスタイルガイドに「単数のthey」が採用されたことが言及されている.


Luis Wilker WilkerNetによるPixabayからの画像