Adminではないけれど [隠居生活編]

主に無職の身辺雑記、たまに若い頃の自慢話。

「どうする家康」完走の感想

17日、大河ドラマ「どうする家康」の最終回を迎えた.見事な終わり方だった.ロスにはならない.この続きは考えられないから.こういう作品は、何も足さないのがよい.一年近く見続け、それなりに疲れたので、ほっとしたという気持ちもある.

近来稀に見る傑作だったと言いたいところだが、最近でも「おんな城主直虎」(2017)や「いだてん」(2019)、「麒麟がくる」(2020)など傑作はいくつもある.まあ、見終わって、満足できればそれでいい.他作品と比較することはない.

小説でもドラマでも、徳川家康を描こうとすると、どうしても本能寺の変以降に力点が置かれる.相対的に、青年期は流される.歴史上、トップクラスに有名な人物だが、若い頃の話は比較的知られていないのではないか.少なくとも自分は、それほど詳しくはない.そこに焦点を当てたのはよかった.

若き日の家康は、世事に疎く、臆病で失敗ばかり.それでも家臣や家族に支えられ、経験を糧として少しずつ成長していく.この展開が最後までぶれなかった.後半の成長ぶりには、よくぞここまでと、見ている方も嬉しくなった.また、そうした振る舞いの中に、今川義元や、武田信玄や、織田信長の影響が見て取れるのもすごいなと思った.桶狭間も、三方ヶ原も、長篠も、ちゃんと糧になっているのだ.

前半と後半では描き方にかなり差があった.この緩急の付け方もよかった.いくら若き日に焦点を当てているとはいえ、こんな展開で本当に一生を描き切れるのか、もしかして今回の大河は二年間やるのか、などと思ったが、後半はダッシュ.かなりのスピード感で駆け抜けた.それでもスカスカの印象はなかった.軍事的な面ばかりを描き、内政に関してほとんど触れられなかったのは残念といえば残念だが、大河ドラマはどれもそうだ.その部分は他の作品で補完するしかない.

前半のCGの出来は批判が多かった.城は、尾張の町は、あんな形ではない.そもそも日本の風景に見えない.ところが、この物語は春日局が竹千代に語って聞かせるものだったという構図が最終回に判明(当初から、家康を「神の君」と呼ぶナレーションから、これを想像した人はいたが).彼女が生まれる前は神代の時代で、曖昧で、間違いも多い.彼女が生まれてからは、解像度が高くなっているという仕掛けだ.この仕掛けは、第40回での前田利家のセリフ「治部が生まれたのは桶狭間の年だそうじゃ。貴公が兵糧入れを成し遂げたあの戦も、奴にとっては壇ノ浦や承久の戦と同じ、いにしえの物語……」ともリンク.うまく作ったものだ.

武家社会で重要でありながら、これまでの大河ではっきりと描かれなかった点に説明があったこともよかった.代表的なのは、正妻と側室の関係。他にもいくつかあった.なんだったかな.

一般に愚君ないし悪女と定評がある物の良い面にスポットを当てたことも、本作の功績だ.こうした描き方は「おんな城主直虎」における瀬名や今川氏真、「真田丸」における武田勝頼などの例はある.が、本作はそれを強力に押し進めた.さらに足利義昭織田信雄が晩年になって登場したのは驚いた.

秀吉が暴走し、寧々も、家康も止めることが出来ず困っていた時に、足利義昭が立ちはだかったという構図はすごかった.史実ではないだろうが、着眼点がすごかった.確かに、ここで秀吉を説得できるのは義昭しかいない.信雄は脳足りんとされることが多いが、小牧・長久手のあとも、交渉役として秀吉との和解に一役買うなど出番が多く、そのたびにどんどん「いい人」になっていくのは見事だった.最晩年に今川氏真が再登場した時は震えた.

しかしまあ、なんといっても本作を名作たらしめたのは、主役を務めた松本潤の熱演だろう.正直なところ、松本潤がここまでできる人だとは思っていなかった.若い日の、調子はよいが臆病なところ、年を重ねて迫力が出、重厚になっていったところ、晩年の老け演技.老け演技に関しては「平清盛」における松山ケンイチを超えるものはないと思っていたが、今回の松本潤は勝るとも劣らない.

もう一人挙げるとすれば北川景子お市と茶々の二役はさぞ大変だったろう.三度落城し、二度死んだ.しかし、本作においては市と茶々は同一役者が演じる必要があった.お市役は、まあいつもの北川景子といえなくはない.が、茶々の狂気を孕んだ言動はすさまじかった.

関水渚(田鶴)、久保史緒里(五徳)、鳴海唯(稲)、板垣李光人(井伊虎松)、杉野遥亮榊原康政)、細田佳央太(徳川信康)、作間龍斗豊臣秀頼)といった若き才ある役者と出会えたのもよかった.これはいつの代の大河ドラマにも言えることだが、今を時めく、またはこれからが期待される若い役者が次々と登用されるのは、楽しみのひとつだ.だから大河ドラマは毎年見続けている.